●一日目
間違った場所にぽつんと、
置き去りにされているような気がした。
[話す]
[触る]
挑発的な、世慣れた女を演じる・・・。
「そんなことしたくない。
俺だって相手ぐらいちゃんと選ぶ。
家出―――してきたのか?」
「うん」
「なら家に帰る方がいい」
「昔話よ―――あたし、父親に強 姦されたことがあるの、
堕胎もしている・・・・・・」
「そうか」
「あたし、男の人がHしたいとか、自分をモノでも見るような眼で、
欲望を満たすのを見ると吐き気がするのよ。でもいいのよ、
胸とか触りたいんでしょ、お尻とか触りたいんでしょ。
好きにしていいのよ。
その代わり、あたしのお願いを聞いて欲しいの」
でも交換条件になるとは到底思えない。
「じゃあ俺はお前をガムテープで縛って拘束して、
カメラで撮影するけど―――いいのか? それで、
その映像を動画サイトにアップロードしてしまうが、
構わないんだな」
「・・・・・・変態」
立ちあがった彼女に首を振った。
―――多分僕は、思春期の傷つきやすそうな彼女に、
同情的になっているのだろう・・。
「嘘だよ。何か事情があるんだろ。
―――話せとは言わないが、
困ってることがあるなら言ったらいい。
何でもできるわけじゃないが、
できることなら助ける」
「そうやって安心させようっていう魂胆なんでしょ、
ナカダ シするつもりなんだ」
「おお、そうだぞ、最低でも百発は出すハードピストン祭りで、
日本カルピス社祭りの白濁液まみれ祭りにするからな」
、、、、、
祭り多いな。
「この、ヘンタイ!」
そして彼女にこんなところにいるぐらいなら、
俺の家来いよ、別に何もしないから、と言って連れてきた。
のこのこついてくるあたり本当に困っていたのだろうが、
信用されたというわけではない。
きっと、誰でもよかったのだ。
(一言目が、ここでしこたまやられてしまうわけね、だった)
(僕の一言目も、そうだぞ、バスルームはあそこだ、だった)
風呂に入らせて自分の服を用意してやった。
だぼだぼだし、汚い、と言った。
何か言わなければ気が済まないらしい。
マルチプロセシング
多重処理。
余計なお世話だという気がしたけど、
カップラーメンがあったので食べさせた。
・・・・・・本当に思う、お前は、
何面倒なことに首を突っ込んでいるんだ、と。
「家に帰りたくない理由があるんだろ、
お金が欲しいなら、ほら、やる」
「それと交換条件で、
俺に何かしろとも言わない、
そんなのは、脅迫だ。
立場が弱い人間に向かって、立場が強い人間が、
命令しているだけだ。
俺が言いたいのはちゃんとした場所で、
寝泊まりしろってことだけだ。
あんな所にいたら、何されても文句言えない」
「Hしたいならしたいって言えばいいじゃない、
あんたはあたしを買った、いいわよそれで。
あたしだって素直になれば色々やってあげるわよ。
溜まってんでしょ? あたし、いっとくけど、
すごく上手いよ」
、、、、、、、、、、、
額にデコピンしておいた。
(僕は確かに経験人数が多いとか、
女性についての知識があるわけではないけど、
だからって、そんな世慣れた女が、
あんなところにノープランでいるとか考えられない)
「社会で働いて二万円を稼ぐのはとても大変だぞ、
一般論としてな。
でも、たった二万円で、
誰かが救われるならそれに越したことはない。
そう思っただけだ。さあ―――家から出て、
駅前の二十四時間の漫画喫茶へ行け、
家出に道というものがあるなら、ラブホテル、
ビジネスホテル、カプセルホテル、廃墟、空き家、
野宿、ファミレスやマクドナルドなど相場は決まっている」
「追い出すつもり?」
「追い出すも何も、俺達他人だろ。
いっとくが、俺は実はS Mが好きだからな、
デュフフ、フヘヘ、縛って縛って、
縛り抜いてしまうからな(?)」
だが、彼女は笑わなかった。
ごほん、と咳払いした。
「でも、今日の俺は気前がいいんだ、
おそらく酒に酔っているせいだろう。
少女のためにミッドナイト青空教室をひらくことも、
やぶさかではない。
しかも俺は、おそらく聞いた話を忘れてしまうだろう」
、、、、、、、、、、
彼女の眼を見て言った。
「もう一度聞く、でもこれが最後だ、
何かあるなら話せ。
話したくないなら、ドアを開けて外に出ろ」
「話す前に聞かせて、
本当はあたしの脇の下で抜いたり、
太腿と太腿の間で果てたいんでしょ?」
「・・・・・・よし、出ていけ」
「出ていかないわよ、偽善者ロリコン野郎」
頑固だな、依怙地だな、と思う。
しょうがないので、ビールを飲む。
飲んでいたら、
「ねえお酒って美味しいの?」
と聞かれた。
「時によると大変愉快になる。しかしいつでも、
いつまでもというわけにはいかない」
「酒臭い」
、、、、、 、、、、、、、、
とりあえず、悪口言いたいお年頃。
「でもあなた、そんなことを言いますけどね、
世の中には、体内でビールを醸造してしまう人もいるんだ。
自己醸造症候群というやつでね」
「だから何?」
「あなたのことですよ!(?)」
他に何か言おうかと思ったけれど、口を噤んだ、
先を争って出ようとする言葉よりも、
思うに、吸い取り紙している方が楽だと思った。
彼女は去るし、僕はここに住んでいる。
感情移入は―――禁物だ・・・。
●二日目
しかしあの、笑いをこらえている、唇のすぼめ具合が気になる。
―――犬に餌付けして、ある日、
発情したそいつに腰を振られたことを思い出す・・。
もちろん、オス(?)
「俺、会社に行くけど、出ていきたくなったら、
鍵あけっぱなしでも大丈夫だから」
「さて、どちらでしょう?」
、、、
知るか。
アフリカのハッザ語、
パタゴニアのヤーガン語で、
話されても、わかりませんから(?)
「居座り強盗ですか?」
行方不明になってから十四ヶ月後、
愛猫がペットフードの工場で発見されたという話を思い出す。
「あとごめん、お金、全部使った」
買い物に行ったのだろう。
僕の家の冷蔵庫に、こんな料理が出てくる材料があるわけない。
信頼と実績の一人暮らしクオリティ(?)
Tシャツ、トランクス、靴下、ズボンの洗濯物の流れるベランダに、
彼女の下着や服があるのは知っていた―――。
、、 、、、
でも、言った。
「何しているんだ、あれは君のお金だろう。
ハッ、それともまさか、二回、三回、四回、
誕生する、人間キャッシュカード」
「・・・・・・そんなことしないわよ」
「で、で、でも、俺の計算では三日で破産(?)」
、、、、 、、、、、、、、、、
ちなみに、キン肉マン方式である。
「そんなひどいことしないわよ!」
家事スキルのある家出少女か、と僕は思った。
メイドになればいいのに、と思った。
「でも、俺はお前の名前さえ知らない、
居座るのは構わないが、そうなってくると次第に―――」
、、、、、、、、、
「身体を求めたくなる?」
関西人ならここで、何でやねん、というところ。
でもハードなボケの場合、そこで突っ込んでゆく。
「そう、俺は真夜中に服を引き裂いてしまうだろう、
何故なら俺は、女性の服を引き裂くマニアだから、
お前はいいダシが出てそうなだからな、もう垂涎だぜ、
これはもう本当にたまらんぜ(?)」
「・・・・・・どうして手出さないの?」
「簡単なことだ、油断させて、そして急に襲い掛かります、
メインディッシュは最後にいただくのが、怪盗の流儀(?)」
「ヘンタイ!」
「なあ家にこもってばかりだとあれだろ、
よかったら、森を歩かないか」
「森で、日本カルピス社するのね」
「空気がきれいね」
「自然の喜び」
「あら、日本カルピス社も、詩的になったのね」
「日本カルピス社は昔から、セイスイのごとしさ、
あ、聖水と、清水、掛けてるからね(?)」
●三日目
彼女は朝御飯を作り、僕が起きるのを待っていた。
段々慣れてくる。
いつ家に帰るの、という言葉に胸がときめいてしまう。
、、、、、、、、
「それは言えません」
「デザートを買っていいぞ」
「なに、給料日」
「ばかたれ、御褒美だよ。
やらなくてもいいことをやった子供には、
大人が贈り物をするしきたりなんだ、
サンタクロースのようにな」
「そして?」
「そしてゾンビ犬に噛まれて、
可愛い子は必ずゾンビになる(?)」
ともあれ、楽しそうに選んでいる。
でも気を遣ってか安いものを買おうとしたので、
僕が高い物を買って、後で交換した。
「おい、遊んで来いよ、ポチ」
「え、なに、聞こえない」
―――その後、僕が怒りたくなったのは、不愉快になったのは、
彼女の行為にではない、
自分の生理的想像力が、経験を越えてしまったからだ。
相対化できない、裏付けのない教訓は、こう言ってる。
、、、、、、、、、、、、、
これ以上傍にいるのは駄目だ、と。
「やる?」
「まあ、落ち着けよ。もう、三日も一緒にいるんだ、
わかるだろ、そういうのを求めていないことは」
「・・・・・・そうね」
「別に女の魅力がないとかじゃない、
そういうのは好きじゃないんだ。
だから名前だって教えてくれたらいいし、
家出した理由だって教えてくれたらいい。
語りたくないなら語らなくてもいい、
でも、ずっとこのままってわけにはいかない」
、、、、、、
限界なんだよ。
「そうね」
「実は、わたしは連れ子で、
再婚相手に、襲われた」
「・・・・・・驚いた?」
「―――弱みにつけこんだ、ひどい奴だ。
俺がその再婚相手だったら、
こんな気に喰わない娘、遊園地に連れて行って、
絶叫コースターに乗せまくる!
それからこのコムスメに夜の袋ラーメンを差し入れして、
唐辛子をいれまくる」
「でもそういうことなら、
やっぱり話をきちんとしないとな。
お前の気持ちもよくわかるけど、
再婚したお袋さんの気持ちは、
どうなるってことになる」
、、、、、、、、、、、、
引出式冷凍室を開ける感覚。
「離婚になるだろうなって思う」
「なるだろうな―――娘に手を出す、
鬼畜な奴と知れれば、
夫婦でいることなんかできない」
彼女はそれに責任を感じたのだろう。
十代の心理というのは、真っ直ぐで傷つきやすい。
「・・・・・・黙ってたらいいかって想ってたんだ、
別にこのまま知らないふりしてたら、
二人は上手くやるんじゃないかって・・・・・・」
いや、世界と一人で戦おうとするドンキーホーテか・・・。
「ならないよ、そういう奴はずっとそうなんだ」
彼女が硝子玉みたいな瞳でこっちを見る。
色々考えたのだろうな、と思う。
義理の父親に優しくされていた時期もあっただろうな、
幻滅しただろうな・・・・・・。
「俺が偶然でもお前の胸を揉んだり、お尻触ったりしたか?
しないんだよ、そういうのは。
そんな自分の欲望を満たす奴ばっかりじゃないんだ。
もし俺がそいつのようだったら、お前なんか今頃、
日本カルピス社祭りだぜ」
殴るようなポーズをされた。
でも、そういうことなんだ、と真面目な顔を作って言った。
でも多分、これがまだ三日目だからいい、
これが三週間後とか、三か月後だったら、
嘘でもこんな発言できなかった―――だろう。
いまだって感情を抑えるのに苦労する・・・。
「そういうことをするっていうのは、もう決定的に違う、
そういうことが出来る、許される、黙っているっていう、
もう、悪い考えを持ってるってことなんだよ。
病気だよ、でもそこに、魔がさしたなんて言い訳は存在しない。
そいつは、わかっていてやったんだ。
社会人ならどんなことにも責任がある、そうだろ、
そいつは、ブタ箱に行くべきだし、
お前のお袋さんに土下座しなくちゃいけないんだよ、
もちろん、お前にも」
「大事になるね」
「なるさ、それだけのことをしたんだ、
だから、お袋さんには話をした方がいい。
お前は十代でコドモだ、オトナの事情なんか考えるな」
「信じてくれるかな」
「でも俺の考えでは、そういう奴は、
お前以外の少女にも手を出してたことがあると思う。
興信所で調べさせて証拠を固めよう。
警察だって証拠がなけりゃ動かない」
「・・・・・・なんかすぐ出てくるのね」
「友達が興信所で働いているんだ。
場合によっては痴漢とか、
少女に毒牙をかけるとかもやってるかも知れない」
僕はふっと、いま―――ニュースの世界で、
何か事件が起きた時に、いまは近くにいた人がスマホで撮った写真が、
使用されていることを思い出した。
決定的瞬間のクオリティよりも、時間の早さの方が重要で、
報道カメラマンの価値も変化したというのを想像する・・・。
、、、、、、、、、、、、、、、
見違えるほど成長した都市の景色・・・・。
「けど、それはそいつの自業自得だ。
お前が一切気に止むことはない。
それでおふくろさんや、お前が変な眼で見られることもあるかもしれない、
けど、黙ってたり、逃げてたりしたらいつまでだって、
お前は暗い顔をしていなくちゃいけない」
「うん・・・・・・」
―――あんまり辛そうな顔をしているので、気が付くと、
ぎゅっと抱きしめていた。
ひゅうっつ―――と笛の音が聞こえ、
押し殺すような泣き声が聞こえた。
、、、、、、、、、、、、、、
ずっと我慢していたんだろうな・・・・。
「戦うっていうのは大変だ、何かを引っ繰り返すっていうのは、
本当に大変だ、一度決めたことをもう一度上書きし直すっていうのは、
大変だ、でも、根性出せよ、勇気出せよ」
「うん・・・・・・・」
「俺も高校の頃さ、付き合ってた彼女がいるんだ。
いっとくけど、お前の百倍美人だった(?)
でも時間とともに疎遠になって、
自然消滅かなあみたいに思ってたんだ、でも、どうだろう、
彼女は病気を患っていて、死ぬ一週間前に手紙をくれた。
亡くなった後に葬式も行けず、墓参りに行ったけどすごく悲しかったな。
ちなみに作り話だけど・・・・・・」
彼女の眼が潤んでいたので、
まあ、人生色々あるさ、と言った。
、、、、、、、、、、、、、、
「お前ちょっとあいつに似てるよ」
一条の鉄道線路が、
南へ南へとたどって行く。
●一週間後
―――何処にでもありそうな住宅街に、
彼女の家がある。
チラシに書かれた分譲とか、住宅展示場という言葉を、
思い出す・・・・・・。
僕と彼女は、警察を連れて自宅に乗り込んだ。
玄関前で大立ち回り。
顔面蒼白になる義父、驚く彼女の母親。
詰め寄ろうとするのを阻んで、前に出る。
伝染病の巣・・・・・・。
「実はお母さん、彼女がそこのケダモノに襲われて、
まあ何もなかったらしいんですけど、
それで家出してたんです、大変心配させました」
「ふざけるな!」
「―――と言うと思いました、これ、証拠ね」
痴漢の写真、それから少女趣味を暴く証拠。
有能な興信所の友達。
「性犯罪者っていうのは嘘をつきますからね、
準備させていただきました。
塾の講師らしいですね、もう何人も被害者がいますよ。
これで、後はあなたのパソコンを差し押さえするわけだ、
ね、刑事さん」
、、、、、、、 、、、、、、
でもここからは、自分の意見だ。
「本当は同じ男として、お前のことをぶん殴りたいんだが、
警察がいるからじゃない、彼女が黙って、自分が消えたら、
それで済むんじゃないかとまで思い詰めた心を斟酌して、だ。
十代の行くあてもない女の子がお前みたいな糞のために、
暗い夜道にいたんだ!
本当だったらてめえみたいな糞をドラム缶でコンクリ詰めにして、
海に沈めてやりたい」
警察官が、笑って言った。
気持ちはわかりますが、と表情を引き締める。
「その発言は、ちょっと」
―――事件は解決した、
裁判が行われるまでに、彼女の母親は離婚した。
彼女は母親の実家に帰ってもう一度やり直すと言う。
僕の家までそのことを伝えに来た。
実家って選択肢がある生活だ、
こうやって一人暮らしをしていると思う。
お風呂、飯のアラーム機能付き(?)
・・・・・・辛い未来になると思う、でも頑張れよと思った。
それにしても、律儀な奴だ。
二万円を取り出して、スッと差し出した。
「いつまで借りているわけにはいかないし」
いやいや、と返した。
「お前、二万円を使ってないだろ、
買い物でちょっと使っただけだろ」
そう言ったあと、彼女が言った。
「ちゃんとしときたいの。
だって、貸し借りがあったら、
お礼もちゃんと言えないし、
これからまた来ることもできないじゃない」
それからこのコムスメ言いやがった。
「わたし、ようは、あの性犯罪者が全然好きじゃなかった、
好きなヒトに襲われるのは、これ、犯罪じゃないと思う」
「いやいやいや、君十代、俺三十代」
「でも、日本カルピス社はできるんでしょ?」
にっこりとした笑顔には、
確かにくるものがあった―――んだ、
(フィードバックのきっかけが、視床下部-下垂体-副腎軸)
不覚にも、
こいつはすごい美人になるだろうな、
と、その時思っていた・・・・・・。