水銀光線の饒舌の中にいて―――、
しばらくすると時間の水底の甘やかな薫りを放つ夜が来る・・。
―――彼女は美辞麗句の中にいた、
性への期待や憧れを、
ゆるやかな潮の満ち干のように繰り返しながら、
悲しさや悔しさや切なさとは不似合いの、
しかしいまだかつて、
出会ったことのない言葉が引っ掛かったように、
唇を窪ませ、腑抜けた舌のなれの果て、
水彩画のような川辺の光景が静かに映し出され、
数億年前の樹脂の中で微動だにしない昆虫を人知れず憶った。
邂逅する・・・・・・。
何世紀も生きたとして―――も、
悲しいという気障な言葉は簡単に言える。
でもその氷と焔でよった超現実的な圧縮された感覚―――を、
会話的本能や、公衆的距離の中で知覚するのだ。
さかりのついたあばずれの女に、
清純さや繊細さなど望むべくもない、
冴えない未来は蝋細工となる、
夜の中で光を感じることは帆のようにはためく風を掴むこと。
優しいということは弱いということなのだ、
その弱さがぼかされ薄められた一瞬を大脳皮質が選択的興奮をする、
果物の腐蝕にもこれ以上進めない固い芯のような種子がある、
見えないものが線やまだらとなる、この眠り・・・・・・。
心理は緊張の代償のように筋肉にしこりを作る、
この無秩序な統制は透き通るように綺麗で、
純粋培養のように危うい生き物の炎症。
取り返しのつかなさというのは、
とらえつくせないものの大きさを表すものだと、
気付く日が来ようとは思わぬうちに―――。
頬に当たる光に足を止めた時も、
無意識の刺や鎖を呼吸の中に閉じ込め、
内気で奥ゆかしいものの妖しくかぐわしい夜を誘い込む。
彫刻した髪も、宝石した天使もとうに黄金色の硝子と見紛う、
清潔な頽廃、無意識に観測される人、雲、車やバスを、
薙ぎ払うことはできない害毒によって死滅する季節―――。
若くてしなやかで素直で、
甘やかされた愛らしい少女特有の引っ掛かりのない美しさは、
胸部に占めている無限に重複した水平線に包帯を巻く。
病んだ蜘蛛の内部を突き破って出てきた蠅のような悶え、
燧石に一瞬眼が眩んだようにはにかみ、
その裏返しのように微笑をひっこめた時に、
表情が弛緩し、
死んだ魚のように膜が拡がり、
一瞬以前の永遠の付属物のような皺の寄った目尻から、
熱気で透明になった、
涙が潤んでこぼれていく。
さよならという言葉が膝を折ったのなら、
それは眼の奥に刺さる無数の流星群。
この黄昏の何もかもが再び明日元通りになる、
青い蝶の触角を焼け火箸とした神に欺瞞を突きつけながら、
冥府の薄明に肋骨の半身を探す、
鮮血を迸らせながら、
世界は亡霊、堕落した僕等には見つけられないだろ―――うね・・、
傷跡を残すだろ―――う・・。
破壊されることを拒んでいる美の抵抗は、
発酵し、感情は循環し、環状のもと自負や不安や懈怠など、
様々な性質が潜んでいるカタルシスの浄化作用と気付く。
心理の廻廊で構図を覚え、
装飾の記号が置き換えのきかない女神を病ませる。
背負いきれぬものの大きさは―――。
―――膿んだ傷口のように燃えた、
突風の内部を移動する紙細工の花は、
いつしか時計の針を観ていない情緒の風情の澱となる。
もう建物も、横断歩道も、街路樹も、街燈もない、
照らし出す対象物を透明に露出し、
通路は崖崩れ、
氷山が語る時刻、
世界が世界であることを止める時刻、
そしてそのことを貪り食った膨大な無駄な時間が、
知っている、
気付いてしま―――う、
人は誰しも、未熟で、愚かで、
中身のない空っぽであること―――を、
だってそれはそう―――言葉なんてものを、
信じていない人だけが本当の言葉を操るように・・・。
幸福な魚が世界に青い空気を孕ませ、
彼女は消滅した真理の予想外の補助線を見つけたろう。
背筋が煙になり、言葉が夢の焦点となる。
背後にはまだ暖かな瞑想のような午后の名残があるのに、
病蛇のような呪文は、
深淵から生命の亡者を見出す魔法は、
咲き乱れる花々のために酩酊する香気を織り始める、
その複雑な綾が、
純情で、無邪気で、素直であったあの頃を思い出させ―――る、
海に向けて展開されている地平ではなく、
角砂糖のような建物でもない、
血のように漂い出すこのこの時刻の祭礼、
彼女は魅力あふれたこの街のすべて、
その瞳の向こう側に文明の薫りがした。
魂の在り処は見つけられず、
溜息一匹捕まえられやしな―――い。
彼女を幻惑する、あらゆるものを惜しげもなく注ぎ、
解読を求める暗号もなくこの身を滅ぼし、
神話を始めよう、
澄み切った空の底に揺らめいている愛が一隻の船体、
箱舟のように乗り込んだ僕等は、
真鍮の釦を散らしながら考えた、
何千年も生きる方法、
そしてこれから向こう遥かに陸地の無い季節でも、
たった一つ生き永らえる方法・・・・・・。