koichang’s blog

詩のノーベル賞を目指す、本を出さない、自由な詩人。

イラスト詩「教訓」







ひねもす秋の寂寥に棲む、彼方に突き出た崖、
天にゆるぎなき位置をしめしたところに・・・、
地上の楽園というのが、あるとするならば、
その不在の彼方、麦藁帽子は落ちるのであろうか―――。

ピリッとくるような丸太の傍らで、
葉もなきその一本の釘と化した樹は、
かくてまたひそやかに、
凍える池の上に蝋燭の影を落とし、
つがいを求める鹿の鳴き声がした。

その目鼻立ちが顔面痙攣を患っていても、
どんなひどい偽驕の中にあるとしても、
淫蕩なる、影くらく層なれる落日よ、
誰だって、獣性質の金気舌を隠し・・。
劇しき毒が舌に触るれば即時に斃れ―――。

消えさりがてにも盛んな今日の息吹を前に、
精髄も、珠玉も、名品もいりは―――せぬ、
残されるのは、ただ、自然との交歓のみ、
無慙な無限のかずかずが、この世の生き甲斐・・・。

人生も、世界も、自我さえもいずれ遠くなる、
真夜中の山道を裸足で歩いたことがあ―――る、
思い出が夢見心地で歩いていた、
人生で一番幸福な頃はいつだったのかと聞けども、
恍惚っとりするのは―――哀れな雄や雌だけ。

どんな質問も砂漠に水を撒くようなもの、
天地の声を聞き洩らすようになり、
人の話をそれほど深く信じなくなり、
両眼球は眼より突出した花盛りの世界があるのみ。

肩甲骨や、後ろ肩や、指の付け根や指の爪、
巧緻極まる神経で考えて―――いた、
底抜けの御座興、ああ、望みという望みを、
燃ゆる窯の中へ放り込んだあと、
―――そして知恵の瑞枝に黄金は生ったか?

静かなる、されども物ほしげなる日の光は、
うしなわれし夢のあと、閃きのぼってゆく飛行機雲、
風を筋道なき人生と譬え、駆けた四足歩行動物、
押し寄せた風のひと吹きが・・・・・・、

幽かに枝をばふるわせてみせたろう・・。
地を匍えるちいさき虫のひかり、苔古れる池水の上、
迂闊にして過酷なる空論。
熱情と緊張の面持ちの好奇に富む徘徊者。
天国狂、愛恋狂、自由狂、戦争狂。

胡桃の樹の殻も、鳥の糞も、蹄の跡も美しい、
そんなものと比ぶべくもないことだが、
一生のうちの試練が一瞬で起こったのなら、
羽ばたきが逃れていくことはなかったろうか、と。

見てくれ、高層ビルに串刺しにされそうな街並み、
何処かへと目指して足早に歩く人達・・・。
いと、眠げに、遠くよりつたいきる記憶のあとを、
そしていまはもう、記憶があったその在り処・・・、
弁じ去り鼓し来たるもの―――。

探し求めている、早朝の森の湿り気、
探し求めている、攀じ登るものの活力、
美しい空の青さが心の中に映り込んでいる、
心臓の弁膜、そうすれば人体は剥き出しの肉体。

心の中に灯っているものは玩具みたいな扁桃腺、
蝮が鼠に向かったときの舌の先、
薄ぎたない髯顔の間抜け加減、抜けた前歯みたいに、
口腔の中で不合理にだだっ広い空虚であるような・・・・・。

ひねもす秋の寂寥に棲む、彼方に突き出た崖、
天にゆるぎなき位置をしめしたところに・・・、
地上の楽園というのが、あるとするならば、
その不在の彼方、あの頃と同じ共同椅子が見える・・・・・・。
―――時に後くれて此の盛況を見るに及ばざりしを・・。


秋毫も違わない、四季の中でもっとも美しいのだ、
逸楽の夜が帳の中へ転がり落ちた顛末、寸法、
我楽多になって伽藍洞になった力動―――だ、
毒の上澄みでも、底なしの穴でも・・・・・・。

自由に滅ぼうとする美なる一瞬時の、
刹那のかがやきを忘れるなと囁く十月、
蜜より甘き巧妙の言を舌より湧かす紳士の面に、
泣きたいほどの切なさが湧き上がり、
また泣きたいほどの切なさが消えてゆく―――。




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