ひねもす秋の寂寥に棲む、彼方に突き出た崖、
天にゆるぎなき位置をしめしたところに・・・、
地上の楽園というのが、あるとするならば、
その不在の彼方、麦藁帽子は落ちるのであろうか―――。
ピリッとくるような丸太の傍らで、
葉もなきその一本の釘と化した樹は、
かくてまたひそやかに、
凍える池の上に蝋燭の影を落とし、
つがいを求める鹿の鳴き声がした。
その目鼻立ちが顔面痙攣を患っていても、
どんなひどい偽驕の中にあるとしても、
淫蕩なる、影くらく層なれる落日よ、
誰だって、獣性質の金気舌を隠し・・。
劇しき毒が舌に触るれば即時に斃れ―――。
消えさりがてにも盛んな今日の息吹を前に、
精髄も、珠玉も、名品もいりは―――せぬ、
残されるのは、ただ、自然との交歓のみ、
無慙な無限のかずかずが、この世の生き甲斐・・・。
人生も、世界も、自我さえもいずれ遠くなる、
真夜中の山道を裸足で歩いたことがあ―――る、
思い出が夢見心地で歩いていた、
人生で一番幸福な頃はいつだったのかと聞けども、
恍惚っとりするのは―――哀れな雄や雌だけ。
どんな質問も砂漠に水を撒くようなもの、
天地の声を聞き洩らすようになり、
人の話をそれほど深く信じなくなり、
両眼球は眼より突出した花盛りの世界があるのみ。
肩甲骨や、後ろ肩や、指の付け根や指の爪、
巧緻極まる神経で考えて―――いた、
底抜けの御座興、ああ、望みという望みを、
燃ゆる窯の中へ放り込んだあと、
―――そして知恵の瑞枝に黄金は生ったか?
静かなる、されども物ほしげなる日の光は、
うしなわれし夢のあと、閃きのぼってゆく飛行機雲、
風を筋道なき人生と譬え、駆けた四足歩行動物、
押し寄せた風のひと吹きが・・・・・・、
幽かに枝をばふるわせてみせたろう・・。
地を匍えるちいさき虫のひかり、苔古れる池水の上、
迂闊にして過酷なる空論。
熱情と緊張の面持ちの好奇に富む徘徊者。
天国狂、愛恋狂、自由狂、戦争狂。
胡桃の樹の殻も、鳥の糞も、蹄の跡も美しい、
そんなものと比ぶべくもないことだが、
一生のうちの試練が一瞬で起こったのなら、
羽ばたきが逃れていくことはなかったろうか、と。
見てくれ、高層ビルに串刺しにされそうな街並み、
何処かへと目指して足早に歩く人達・・・。
いと、眠げに、遠くよりつたいきる記憶のあとを、
そしていまはもう、記憶があったその在り処・・・、
弁じ去り鼓し来たるもの―――。
探し求めている、早朝の森の湿り気、
探し求めている、攀じ登るものの活力、
美しい空の青さが心の中に映り込んでいる、
心臓の弁膜、そうすれば人体は剥き出しの肉体。
心の中に灯っているものは玩具みたいな扁桃腺、
蝮が鼠に向かったときの舌の先、
薄ぎたない髯顔の間抜け加減、抜けた前歯みたいに、
口腔の中で不合理にだだっ広い空虚であるような・・・・・。
―――時に後くれて此の盛況を見るに及ばざりしを・・。
秋毫も違わない、四季の中でもっとも美しいのだ、
逸楽の夜が帳の中へ転がり落ちた顛末、寸法、
我楽多になって伽藍洞になった力動―――だ、
毒の上澄みでも、底なしの穴でも・・・・・・。
自由に滅ぼうとする美なる一瞬時の、
刹那のかがやきを忘れるなと囁く十月、
蜜より甘き巧妙の言を舌より湧かす紳士の面に、
泣きたいほどの切なさが湧き上がり、
また泣きたいほどの切なさが消えてゆく―――。