パパママありがとう、
入学式前夜、
ランドセルや防犯グッズ、折り畳み傘、
筆箱や筆記用具、はさみに、のりに、
クレヨンに色鉛筆。セロテープにホッチキス。
運動靴に通学靴、上履きに、制服に通学帽、
体操服に、手提げ袋、給食袋の前で、
娘が言う。
必要だから買ったものでも、
その一つ一つが何かの贈り物みたいに思える、
子供の素直さが羨ましい。
世の中はお金だと思うけれど、
お金を使うのはいつも大切なことのため。
それにお名前シールをつけたり、
マジックで名前を記入したりする。
その名前の子供がいつか、
通信簿を持って帰ってくる。
いつかその名前でもって自己紹介をし、
多くの人の前で明快に喋らなければいけない。
英語でスピーチするかもしれない。
大きくなるということは、
嫌なことを沢山知るということだ。
歩幅が大きくなり、
少し手が大きくなったような気がする。
喋り方も少し大人に近付いただろうか。
子供向けのアニメを観ているけれど、
その内、大人向けのアニメを観るだろう。
ジイジやバアバは、
揺り籠のように学習机を買って寄越した。
馬鹿な買い物、道楽とは思うけれど、
電話でお礼を言ってる君は素敵だ。
いつか大人たちは自分のことよりも、
小さな子供の人生のことばかり考えるようになる。
でも、まだ一人では眠れなくて、
パパとママに挟まれて眠る。
でも離れられないのは実は、
両親の方かも知れない。
守っているようで、守られている。
人は報酬系の快楽物質なしに動けない、
そういう弱さを愛というらしい。
天気予報を確認して、
降水確率は低くて晴れ模様なのに、
てるてる坊主まで作って眠る。
こんなに楽しみで嬉しいことなのに、
きっと君は忘れてしまうんだ、
その時の気持ちを真空パックして、
何処かに置いておけたらいいのにと思う。
大人になると寝付けない夜が来る、
熱帯夜のせいではなくて、
神経が高ぶって眠れないことがある、
したいことの順序が決められなくて、
何をどうすべきかがわからなくて、
人知れず悩んだりすることもある。
大人たちは過保護かもしれず、
厳しければ嫌われるかもしれず、
それでも人を育てる、
子供を一人前の人間に育てようとする。
いつかパパは、子供が生まれる日のことを、
ぽつぽつと結婚式前夜、もしかしたら老後、
孫連れてきた君に話すだろう、
あの日は会社に電話があって早退した、
電車で君の実家近くにある病院まで向かっていた、
その時の見るものすべてが非日常めいていて、
きらきらして、神様の吐息が聞こえるようだった。
涙脆くないつもりだったパパもきっと、
その話をする時には泣いてしまうかも知れない。
大人になるイヴェントというのがあり、
両親になるイヴェントというのがある。
その日なんて本当はないのだけれど、
絶対その日だって思うような日がある。
その時ママも思い出す、
恋も知らない、その頃のことを。
夢見ているような世界の景色を。
子供と話していると、
夢語りのようにその頃のことが甦る、
だから君は小さな自分なんだ、
でも小さな自分を見ているけれど、
やっぱり君は君なんだ、
そのことに気付くとうまく怒れなくなったりする、
大人がみんな大人だったわけじゃない、
小さな子供だったことのある大人、
場合によってはそのことを忘れた大きな子供。
寝付く前に、
写真を小学校の門の前でぱちりと撮ろうと約束した、
桜並木が広がったその通りで、
子供たちはみんな妖精みたいに思えるだろう、
そして花みたいな笑顔でころころと笑うだろうと考えた。
これから待ち受ける人生の苦労を何も知らないで、
だからこそ前に進める、自由なんだ。
いつかそこに色んな人の手を知るかもしれないし、
そんなのまったく気付かないかもしれない、
なにはともあれ、小さな小さな一歩が始まる、
彼女は人生の何ページ目を開いたんだろう。