koichang’s blog

詩のノーベル賞を目指す、本を出さない、自由な詩人。

イラスト詩「入学式」





パパママありがとう、
入学式前夜、
ランドセルや防犯グッズ、折り畳み傘、
筆箱や筆記用具、はさみに、のりに、
クレヨンに色鉛筆。セロテープにホッチキス。
運動靴に通学靴、上履きに、制服に通学帽、
体操服に、手提げ袋、給食袋の前で、
娘が言う。

必要だから買ったものでも、
その一つ一つが何かの贈り物みたいに思える、
子供の素直さが羨ましい。
世の中はお金だと思うけれど、
お金を使うのはいつも大切なことのため。

それにお名前シールをつけたり、
マジックで名前を記入したりする。
その名前の子供がいつか、
通信簿を持って帰ってくる。
いつかその名前でもって自己紹介をし、
多くの人の前で明快に喋らなければいけない。
英語でスピーチするかもしれない。
大きくなるということは、
嫌なことを沢山知るということだ。

歩幅が大きくなり、
少し手が大きくなったような気がする。
喋り方も少し大人に近付いただろうか。
子供向けのアニメを観ているけれど、
その内、大人向けのアニメを観るだろう。
ジイジやバアバは、
揺り籠のように学習机を買って寄越した。
馬鹿な買い物、道楽とは思うけれど、
電話でお礼を言ってる君は素敵だ。
いつか大人たちは自分のことよりも、
小さな子供の人生のことばかり考えるようになる。
でも、まだ一人では眠れなくて、
パパとママに挟まれて眠る。
でも離れられないのは実は、
両親の方かも知れない。
守っているようで、守られている。
人は報酬系の快楽物質なしに動けない、
そういう弱さを愛というらしい。

天気予報を確認して、
降水確率は低くて晴れ模様なのに、
てるてる坊主まで作って眠る。
こんなに楽しみで嬉しいことなのに、
きっと君は忘れてしまうんだ、
その時の気持ちを真空パックして、
何処かに置いておけたらいいのにと思う。

大人になると寝付けない夜が来る、
熱帯夜のせいではなくて、
神経が高ぶって眠れないことがある、
したいことの順序が決められなくて、
何をどうすべきかがわからなくて、
人知れず悩んだりすることもある。
大人たちは過保護かもしれず、
厳しければ嫌われるかもしれず、
それでも人を育てる、
子供を一人前の人間に育てようとする。

いつかパパは、子供が生まれる日のことを、
ぽつぽつと結婚式前夜、もしかしたら老後、
孫連れてきた君に話すだろう、
あの日は会社に電話があって早退した、
電車で君の実家近くにある病院まで向かっていた、
その時の見るものすべてが非日常めいていて、
きらきらして、神様の吐息が聞こえるようだった。
涙脆くないつもりだったパパもきっと、
その話をする時には泣いてしまうかも知れない。
大人になるイヴェントというのがあり、
両親になるイヴェントというのがある。
その日なんて本当はないのだけれど、
絶対その日だって思うような日がある。

その時ママも思い出す、
恋も知らない、その頃のことを。
夢見ているような世界の景色を。
子供と話していると、
夢語りのようにその頃のことが甦る、
だから君は小さな自分なんだ、
でも小さな自分を見ているけれど、
やっぱり君は君なんだ、
そのことに気付くとうまく怒れなくなったりする、
大人がみんな大人だったわけじゃない、
小さな子供だったことのある大人、
場合によってはそのことを忘れた大きな子供。

寝付く前に、
写真を小学校の門の前でぱちりと撮ろうと約束した、
桜並木が広がったその通りで、
子供たちはみんな妖精みたいに思えるだろう、
そして花みたいな笑顔でころころと笑うだろうと考えた。

これから待ち受ける人生の苦労を何も知らないで、
だからこそ前に進める、自由なんだ。
いつかそこに色んな人の手を知るかもしれないし、
そんなのまったく気付かないかもしれない、
なにはともあれ、小さな小さな一歩が始まる、
彼女は人生の何ページ目を開いたんだろう。