商店街に少し頭をこごめて風に刃向かいながら、
すぼめた肩に翼をしまいながら、凛とした瞳をした、鳥。
チャームポイントの、大きなお尻が動いていた。
商店街福引。
年末恒例の歳末セールにあわせて、
執り行われる毎年のイヴェントだ。
茶色の長テーブルに回転抽選機があり、
垂れ幕で商品の説明をしている。
ちなみに、複数の事業者が参加して行う懸賞は、
『共同懸賞』と呼ばれ、
景品表示法の規制が及ぶ。
この共同懸賞の場合、景品の最高額は取引価額にかかわらず、
三〇万円と定められている。
特賞『二泊三日の超豪華熱海旅行』
一等『折り畳み自転車』
二等『商品券三万円』
三等『各種家電製品』
四等『いいお肉』・・・。
そんな風にひな壇に並んでいる。
(スポンサーに、気前のいい市長さんが、
入ってくれた、)
ちなみに、足下にはジュースの箱があり、
また各種お菓子が並ぶ。
ポケットティッシュもあった。
いわゆるスカ、外れ商品。
回転抽選器いわゆるガラガラから、
割り当てられた色の玉を取り出せば、
からんからんと鈴を鳴らしてくれる。
こち亀に出てくる商店街福引だ。
、、、 、、、 、、、、、、、、、、
けれど、そこに、奴が朝一番で来ている。
「かもちゃん、困るよ」
赤い法被を着た魚屋のおじさんが、普通に言った。
紅白幕と景品が並んだひな壇を睥睨しながら、
「だって、かもちゃん、運がすごくいいから、
いきなり特賞とか一等持ってちゃうだろ」
かもちゃんの運の良さは折り紙つきで、
いかさましてるんじゃないかというぐらい、当たる。
あまり知られていないけれど、競馬の勝ち馬をあてたり、
パチスロのあたる台をあてたり、
ビンゴでは五回連続で一番乗りをした、という実績がある。
いずうさちゃん曰く、神様を連れてきているとしか思えない。
ところで話は変わるが、
一発じゃんけんというものがあり、指で一から五までを出す。
被ったら負け、残った人の中で、最も大きい数字を出していた人が勝ち。
ただし一は五に勝つ。
ルールとしてはシンプルで面白い。
ただ、これ、致命的な欠陥もしくは必勝法というのが存在し、
結託していた場合の勝率は半ばやらせである。
、、、、、、 、、、、、、、
じゃんけんは、そうはいかない。
おそらく、そうだ、
かもちゃんは運勢の神様を引っ張って来ている(?)
、、 、、、、、、
いる―――七福神がいる(?)
「大丈夫ダロ、かもちゃん、悪いことをしていないダロ」
口調は穏やかであったけれど、眼がギラギラしていた。
三歳と言い張る雄の鳥には、何か獲物がある。
それはマグロとか、野生の鹿ではなく、商店街の福引の商品なのだ。
野生が滾っていた。
やられる、魚屋のおじさんは直感的にそう思った。
世の中にはスキルも才能もスマホも使いこなせないおじさんが、
サンドウィッチマンという看板の仕事をするという。
―――ラブホテルの仕事の話でも、無能の受け皿、
頑固で愛想の悪いおじさんが落ちる場所として、
ラブホテルという仕事があった、という話がある。
それが何か?
簡単なことだ―――やられる(?)
「そうだ、おじさんが相談してあげる。
かもちゃん、何が欲しいの?」
魚屋のおじさんは、親戚のお金持っていて、
話をよく聞くおじさんを演じた(?)
気持ちとしては持ってかれてたまるか、
ぶっこんでやんよ、みたいな感じであった(?)
「かもちゃん、回したいだけダロ」
、、、、 、、、、、、、、、、
やられる、これは完全にやられる、
敵は自警荒らしさながら(?)
魚屋のおじさんはそう思った。
よしよし、と魚屋のおじさんはかもちゃんの頭を撫で、
回したいだけならいいよ、でも商品あたらないよ、
それでもいい?
しかしそう言うと、
かもちゃんが横を見て俯かれた(?)
「かもちゃんだってあたったら、商品欲しいダロ」
、、、、
やられる、
魚屋のおじさんは直感し、震撼し、そして恐怖した。
幸福の青い鳥のいるおかげで商店街全体の売り上げは、
例年通りだったけれど、
それでも、何か楽しいことをしたいと、
お客さんに喜んでほしいと、
市長さんをスポンサーにし、色々と計画準備してきた。
商品を持って行かれたくないわけではない、
誤魔化しもしていない。
本当に―――本当に、心の底からそう思っていた。
それが、まさか、かもちゃんに―――やられる(?)
しかも、商店街で買い物をしていないはずなのに、
どういう闇ルートがあったのか、主婦連なのか(?)
商店街の福引券を五枚も所持していた。
五枚―――も(?)
やられる、魚屋のおじさんは本当にそう思った。
絶対意味がわからないと思うけど、
美内すずえの単行本未収録作品『青いトンネル』に出てくる、
パチャンタの神のようなインパクト(?)
仕方ないので市長さんに電話した。
市長さんがやってきた。
それはたとえるのならば意味がわからないと思うけれど、
「かもめハウス福引をしましょう」と言われた。
「あたる?」
「いっぱい商品があります、商店街福引よりずっといいですよ。
その五枚をこちらにあずけてくれたら、そうしますよ」
「じゃあそうするダロ」
運が良すぎることが知らない商店街の他の人だったら、
かもちゃんに全部持っていかれていたかも知れない。
―――魚屋のおじさんは溜飲が下りた。
でも一回だけ記念に回させてほしいダロと言った。
実際、市長さんはかもちゃんがそこまで運が強いことに懐疑的だった。
何しろ、市長さんはかもちゃんの実績を知らない。
きっとノーベル殺人賞とかいう、思いっきりパチモンの、
そして言ったもん勝ちの、何かさえない主人公の、
『木曜日のリカ』のようなもの(?)
『探偵物語』ってハードボイルドだと思うようなもの(?)
というか、という―――か、
かもちゃんが幸運の青い鳥であることを、
魚屋のおじさんも、市長さんも時々忘れている・・。
回転抽選器をくちばしで回すと、
カラン、と、
いきなり特賞の金色の玉が出てきた。
もちろん、スッと取り上げ、回転抽選機の中に戻した。
市長さんに連れられて、かもちゃんが去っていった。
年末間近、師走、すっかり冬の商店街―――。