koichang’s blog

詩のノーベル賞を目指す、本を出さない、自由な詩人。

人身事故の話








朝の通勤ラッシュでごったがえす、満員電車―――。

「もう一歩詰めてくださーい」

混雑率二〇〇パーセント
ダイヤを乱すことは一秒たりとも許されない。
そんな定刻通り、駅に進入する際、
背筋が凍るような、
・・・何か嫌な予感がした。

人込みを掻き分け、
線路方向にふらふらと歩く、
不穏な人が見えた・・・・・・。

「ん・・・」

電車のホーム突入速度は六〇キロを超える、
車体は三〇トン
危険を察知しても急には止まれない。

「お、おい―――やめ・・・!」
「あ、ああ―――」

その男性はふらふらと線路に飛び込んだ!
駅のホームに警笛と急ブレーキの音が響き渡る。

「あ、うわあああああ!」

どうすることもできない。
身投げだ・・・。
常に最悪のケースを想定しろと言われている運転士でも、
こんなことが眼の前で起こるなんて想像さえしていない―――。

とはいえ、首都圏ではJR中央線が多く、
首都圏以外では、JR神戸線と、JR東海道本線が多い。
月曜日の朝は人身事故が起きて電車が遅れる、
という噂がネット上に存在し、真偽は定かではないが、
週明け最初の出勤日である月曜日の朝、
長時間労働などで疲れ切った会社員らが、
出勤途中で人身事故を起こしてしまうからだ、というのが理由らしい。
(ただ、データによれば火曜日と週末を除き、
一定数あるものらしい、)
「精神状態」と「勤務状況」が原因だというデータもある。

十九歳以下の子供にもある。
連休明けというタイミング、
夏休みや冬休み明けの始業式前後に子供の自殺が増えるように、だ。

とはいえ、飛び込み自殺をする人の傾向というものには、
「助けてくれなくていい」「誰も信じられない」
「お前に何がわかる」「……(無言)」
「死なせてくれ」
というようなもので、絶望感や孤立感、
悲嘆や焦燥や衝動性、無価値観、現実乖離感覚、視野狭窄状態、
など、様々なものが波のように押し寄せている。
将来の希望がない、
生きているのが嫌になったというものだけではない、
それはうつ病のレベルのように様々なものが存在する。

「〇〇駅付近で、
人身事故発生!」

人身事故が起きたら、鉄道会社から、
警察と消防、必要な場合はレスキュー隊に連絡する。

飛び込み自殺の本質は、鉄道の車輪による轢断と、
それに基づく出血多量死であることを踏まえて、
体の部位に応じた出血量を比較し、その差異が三〇倍程度もあり、
また同時に車輪は鋭利なものではないので出血がしにくい可能性がある。
設計すべきオブジェクト(列車、車輪、人体)と、
そのメソッド(運動方程式)だ。
電車の車輪によって手足を数回轢断され、
電車の底部の突起によって数回身体を突き飛ばされ、
枕木と砂利の間で服と皮膚を剥ぎ取られ、
二五メートル以上にわたり身体のパーツが散乱する。
―――無痛で即死ではないかも知れない、
ならびに、その痛みは想像を絶しているかも知れない。

「人身事故が発生しました!
すぐに救急車を!」

SNSが大忙しになる。
勤務先への連絡、学校への連絡、
取引先への連絡―――。
事故?
あーあ、やってくれやがったよ。
人身事故だって?
ザケルナ、大迷惑だよ。
オイオイ・・・
ザワザワザワザワ―――。
ピピププ、プププ・・・・。

中国で飛び降り自殺をしようとした人に、
早く飛び降りろという心ない野次があがったことがある。
そうではないが、
死んだ人を悪く言う、
同じ人間として、労わるような視点を忘れてはいけない。
ただ、生きている人には生きている人のルールがある、
その中にはもちろん、
「死にたい」「会社辞めたい」「学校行きたくない」
という人もいるのだ。

そして駅側では、【「いのちの電話」と連携した活動】や、
【ホーム転落防止キャンペーン】をしている。

いまではホームドアを設置しているところも増えているという。
首都圏に集中し、すべての駅の設置には至っていない。
駅側でも取り組みを進めているのだ。ホーム柵、内方線付き点状ブロック、
赤色に塗装したCPライン、ホームのベンチの向きの変更もする。
青色LED、遠隔セキュリティカメラもそうだ。

「押さないでください」

通勤ラッシュ時の人身事故―――。
駅は大混乱だ。
そんな時に駅員に怒鳴り散らすマナーの悪い客がいる。
人間として本当に最低だ。

列車の中に長時間殺気だった客と過ごす羽目になることもあり、
その時に運転士は身の危険を感じることもあるという。

それでも駅員はペコペコと頭を下げている。
思うことは同じだ、そっち側とかこっち側にはない。
なんでこんな面倒くさいことが起きているんだろう、
自殺するのなら他所でしてほしい。
でもこれが社会なんだ・・・・・・世の中なんだ―――。

多くの人を巻き込んで迷惑や損害を及ぼし、
人生を狂わせることにもなる飛び込み自殺―――。

人身事故が起きた場合、
その駅の鉄道員が警察の到着まで、
事故処理を行う・・。
ここでいう事故処理とは、遺体の回収だ。
多くはあまりに凄惨な状況のため、
マスクと防護服は必須だ。
むせ返るような血の臭いというアニメ的な表現も、
するだろう―――。

「そっちにもあるぞ、残さず拾え」
「救急隊が到着しました」

救急隊が到着するとともに回収作業を終わらせて、
そのあと、電車の洗浄、痕跡を完全に洗い流す。
遺体が弾き飛ばされていれば回収の難易度はそれほど高くないが、
遺体が車両の下にある場合や、
遺体が車両や部品に絡み合ってバラバラになると困難をきわめる。
(バラバラになった遺体の臭いだけは慣れないという話がある。
もちろん肉なんかすぐには食べられない、)
そんな回収作業と並行して、警察は現場検証をする。
身元の所持品、動機などが調べられる。
運転士は事情聴取のため勤務を交代するのが多いと思うが、
そのまま次の駅まで走らせるという、
辛い選択をさせることもあるようだ。

よく噂で耳にする「巨額の賠償金」だが、
実際に請求されるのは事故時の混雑具合によって左右されるが、
また生活状況や支払い能力も踏まえて減額され、
数百万から一千万程度らしい。
とはいえ全額を合計すると数千万とか、億を超えることもある。
もちろん加害者に「故意又は過失」があったかどうかを判断されて、
その話は進められる。

もちろん盲導犬を連れた人や酔っぱらいが誤って転落したり、
転落した人を助けようとして巻き添えになる事故もある。
喧嘩で転落する事故、歩きスマホによる事故・・・。

場合によっては相続放棄をしたり、
監督義務者が支払い不可の場合は自己破産を検討することもある。
ただ、裁判に発展することは少ないようだ。

一、 車両の損傷(修理代)
二、 遅延による払戻金
三、 清掃コスト
四、 他の鉄道会社・バス会社に払う振り替え輸送代

遺体回収・現場検証・車体洗浄、
すべて済むまで一時間~三時間かかるといわれている。
人が死ぬだけでこれほどの時間がかかるのだ。

「お待たせ致しました、
運転再開いたします」

鉄道での人身事故は関東で増加しており、
年間六〇〇件を超える。
警察は事故を起こした人の詳細な情報を開示していない。
こうして人身事故は処理され、何事もなかったように、
電車は動き出す。しかし―――。

運転士は人を轢いた経験をすると、
トラウマから異動するものも多い。
もちろん人を轢いた運転士は罪に問われることはない、
だが、罪という意識は厄介なものだ。
人を殺したという感覚が消えないのだ。
心療内科へ通い、カウンセリングを受けるケースもある。
眼の前で人が飛び込んできた映像を一番見やすい場所で、
大人数を安全に輸送する、脱落者も出る厳しい見習い時代を終えて、
運転士になった人には責任感や使命感が芽生えている。
そんな一番見たくない類の人が見せられるというグロ映像。
どうして人は電車に飛び込むのだろう・・・?