koichang’s blog

詩のノーベル賞を目指す、本を出さない、自由な詩人。

水・蠅・枷る・ある日、いつものように夜・完全な感情の一致

 

 

 

気がつくと、僕は呼吸が出来なくなっていた

崩れかけた煉瓦の街。――その狭い通り――

大きく裂けたかと思うと

分厚い水の層の灰色に塞がれて、血流が逆流した

身体から釘が一本抜けたような感覚が拡がり

途端、ネジやぜんまいが足下に落ちていった

  がたがた、と寒くないのに僕は顫えていた

  脂汗が機械油のように滲んでくる

  世界はその時、僕にはとても恐いものだった

どうして定時制だったのか、どうして頭の悪いふりをするのか、

どうして大学へ行かなかったのか

  みんな――僕のことを知らない・・

  どんなへだたりにさえ、ひと目で気づく、友達なのに・・

五センチほどの距離がまず気になった

中学一年生の時の友達に無視された経験が根強く残ってる

・・・ああそんなものなんだ、と思った瞬間、

饒舌で、クラスの中心にいた僕――学年で僕を知らない人がいない僕を

いつのまにか棄ててしまっていた

  ・・仮面劇のように。

  そう、男の子の姿はだんだん見えなくなっていく

  待って! ――乱暴者の顔、秀才の顔、孤独者の顔

  解像度の高い大量の情報が視神経からダイレクトに脳に届く。

  こんな奴知らない・・

  それでも僕は美しかった。輝かしかった、本能の獣となり、

  誰にも飼い馴らされることのない、僕は――

時が経つにつれて、色んなものが嫌いになっている自分に気付いた

それでも弱みを見せまいとする僕の自尊心は

みはり過ぎて目に涙がたまり、

皮を剥かれたような絶望に取り残されていた

甘ったれんなよ!

  ・・・僕はその時、彼等に同じことを言ったのだ

  ひとりの人間の弱さが、すさまじい雨に変わる

  ほぼおなじ背丈で、ほとんど何も変わらなかった僕等の年頃で

  あらゆる動きが、・・僕に教えた、趣味やクラブや勉強や話題というものに

  、ついていけなくなった――興味をなくした

  心が変わっていくほどに、僕は一人の場所を欲しがった

みな、僕を胡散臭そうにジロジロと見る

やめろ! ・・穴が空いてしまう

僕は風の音の底、パラシュートで飛び降りてきたみたいだ。

  ――言いたいことの半分も言えない

  失語症かも知れない。・・もしかしたら鬱かも知れない

  それでも僕は誰にも助けを求められない

人の眼を見るのがこわくなった

印象はきっと冷たくなって、やたらとツンケンしていたのだろう

憧れる人もいた。――でも、それに気づかないふりもした

そして僕は気味が悪いほど、真夜中の公園で水を飲んだ

  定時制から家に帰って、毎日小説を書いていた

  才能があると思っていたわけではない、たんに何かがあると思い込み、

  その実、何処にも行けない僕の物語

  「目は閉じていて、ほんとに眠っているみたい・・」

  ・・踏みあやまりやすい岐路に怯え

  運命がこわかった。――いずれ仕事をせねばならない、

  自分自身をハッキリと認めねばならないことが

  どうしようもなく僕にはこわかった

真夜中に徘徊すると、五時間や六時間も歩いた

自分の町も、隣町も、・・・ほとんど虱潰しに歩いた

疲れていた――さびしかった

美しい夢が狂い出すネオン・・街燈、車のヘッドライト――そして、蝶

殺されるために歩いた。・・死を見つけるように歩いた

そしてその日、自分のあまりのくだらなさに一歩たりとも歩きたくなくなって、

ベンチに寝転がった。すると、嘘のように涙がぽろりとこぼれた

――僕は傷付いてる、そして痛い・・

僕の肉体が、少しずつ大人になってゆく、

少年時代に帰りたい、子供のままでいたい、とまだ思っていた

  失ったものは、過去・・けれども、亡霊はいつでも追い掛けてくる

  それは作戦行動中の兵士の動作のように見える

  世界に受け入れられたがっていた。でも――拒否していた、拒絶していた

だって傷つけ合ったり、奪い合ったりするから

けれども、答えが出ない、堂々めぐりが始まり、

それでも白い泡のような僕の薄っぺらい人生は何一つ答えようとしない

手が震えていた。・・

  一人前のような口を利くな! 偉そうに指図するな

  ――結果を出しさえすれば、奴等は黙る、・・

  右を見たり、左を見たりしたが、誰も傍にいない

  僕は優秀な牡だ! ――弱い奴をすぐに蹴散らす――

  でも、振り返ると、僕の人生は極端に行きすぎて

  自虐癖すぎる

魔力のように、・・絵を探す

青写真が見つかるとそれに対する努力で誤魔化せる

でもその実態は要塞のように厳重な設備

誰一人として入ってこれない扉だ

  まったく気づいていない。僕の破綻はいつも小さな傷から化膿したものだ

  ――我慢をかさねた僕の生きている時間の感覚というものは

  バランスの壊れた天秤だ。堕落し続けるか、成長し続けるか

  ・・・みんな、――僕の苦悩というのを知らない

ときどき、あの日の僕が、「そうら、捕まえたぞ。」と

勢いよく飛び出してくる。鶴の羽のようにふわりと空中に浮いて、

あの気恥ずかしさごと僕を呑み込んでしまう

  ・・・手の震えは止まり、いまは、呼吸も苦しくない。

  それに十何年もかかった

  友達と酒を飲むし、前より少し笑うようになった。

  さびしくても、くるしくても、――気は狂っていない

それでもたまに、首を傾げることがある

思いやり深いような目を浮かべているにちがいない僕は

顔も名前も知らないのに、年齢も職業も知らないのに

ときどき、その人のことを思って涙が止まらなくなる

「大丈夫、・・大丈夫」

  いつも何かに満たされていないと思う君は――正常だよ

  欲望が! 時間が! ・・君に何かを追いたてる。発見せよ!発掘せよ!と・・

  でも、大丈夫、怯えないで、苦しまないで、人生は、まだ君を壊してない

平凡な、とりたてて誰かを慰めるような、救うような、ひと言ではないけど、

その言葉のひびきに胸が強く締め付けられる

愛を知らない天使のようなひと時よ

  ――僕が悲しかったのはね、君達が、誰かに合わせようとしていたこと

  自分に、嘘をついてまで、・・言葉を内側に籠らせてしまうこと・・

  僕は知ってるよ、君が本当の人生を見たがっていることを

  ――そのために、心臓の鼓動が通い合う人と、波打ち際に佇みたいことを

愛の許しを得たいと思っている! それで、

自分を変えたい、できるなら幸せになりたい

・・僕は胸の底にある不安の正体を知っている、あなたがあなたのことを、

まったく知らずに生きてきたことを僕だけが告げる

その欠落感、その欠乏感、――真実は孤独が響き合うようにある

  陽ざしのなかから陰へと移っていく感覚。踊りの群れの中、

  人ひとりの重さが、・・碇のようにある

僕だ。――僕は無表情に突っ立って、背に負うたものを、さも軽そうに持つ

生きている間に何度起こるか知れない奇跡がそこにある

頭から爪先まで、魂が欲しがっている人を僕は見付けた

失いたくない。失ったら・・もう二度と取り戻せないかも知れない

僕は怯えている。でも人を好きになる――玄関から家のなかへと入れる、

芝生がある。木々がある。花壇がある

視線をとらえてやまない魔法が涙と共に落ちそうだ

もう一度、君を見つけたい

僕の音楽がオフになる前に、すべてのものがぴたっと静止する

あのメロディーが、その人の幸せを願う、その人の笑顔を願う

物質は、その人の名を記さない。魂は、すべての答えを語るだろう

だから僕は歌う、恐れずに歌う・・愛の歌を!愛の歌を・・

  最後の瞬間にも見ていたはずの景色・・僕は、まだ若かったと思う

  ――命を断ったか、病気で死んだような気がする、

  だから、この人生で僕は中々死ねない、・・そんな気がするんだ

  ねぇ長い夜は水を誘導するための水路のようなものだと思わないかい

  それぞれの内側に掘られた溝に、水が滑っていく

  水は――僕の愛の記憶だ・・

 

 

  *

 

 

 

 

               こがねいろ
肩越しにふりむくと陽射しは黄金色になっていた

それが黒い表紙の鼻にとまった蝿の告白である

「乞食もいなければ、盗賊もいない」


  * * *


猜疑心を抱くのはどうしてだ

薪を割るように 干場へ。暖炉へと。運んで行かれる
         なかだか
鷲の嘴のように中隆に曲って

音もなく雪の重みにしなう


  * * *


  もとめずにはいられないから ひびかせたかった の

  二月の雪融けの水は

  あなたに捧げる愛の大きさだ


  * * *
 

        幅 の広い両肩のすぐ傍に海が接している

       思い  出の重さに耐えきれず 

     途中か   ら割れるか折れるかしてしまう矢がある

波よ。秘密を掩い蔽すような私の肩幅は

沈黙を抱きすぎた

、ちぎれちぎれの雲が泳いでゆく


  * * *

、、、、
ねじくぎが 私の愛のすべてだった

木立ちよ 弧を描いて翔び去った冬の鳥よ


  * * *

         、、、、、、、、
氷柱の中に 低い低い低い低い小屋がある


  (プシュケを見つけた、)私は真面目な、憂愁を帯びた目をして

  、姉たちに唆され、私を殺そうという女を見る
                   、、、、
  落ち着いた気色というには杳い遐い僻遠の境に

  鞭のようにすらりとした、蝋燭の灯のように揺れた、Psyche


  * * *


    どうして首を洗ったの? おまえに咽喉を裂いてもらうためだよ


  * * *

 
繪畫というのはすべからず別荘のようであったらいい

夏の蛇はいく度も脱皮するものだよ

浮木が波に弄ばれたように模様が濃くなる

  ――憎悪と言うものが、――

しかしおまえの身体に入る時、肌は雪のように白い

  ――それも滴るような、愛。――


  * * *


私の身体は少しずつ腐っていった
     いいかた
そしてその独白に気が重く欝ぐ訳などを明かして

蠅が集っている/美しい銀食器の隣で


  * * *


  EPILOGUE


  少女が夜の闇を覗いたのは、八月のなまぐさき幹をくだるとき。

 天がきまぐれにこぼした涙か。それとも揮発液。蒸発の類。ああ、
                                  おとな
 それは光のかけらのように私たちの行為の季節の中へと訪う。目

 覚めよ、インク壺。黒猫。ああ、なんと罪深きガラス玉遊戯、限界

 まで傾斜、体はいる。いれる身体はいる淋しい色の手まねきがすっ
                         うち
 ぽりと玉葱いろの中にいれられる。心の裡に、浮び来ようそしてま
                       こがね
 たいれるより完璧に“鬱なる、鬱なる、黄金の色の天井よ”


   

  *

 

 

伽る

 


ある哲学では

生と死

を語る
  ビューティフル
・・・すてき! 

仰向きに死んでいる酔っ払い

改まった感じで

生のために

が、語る! 閃く

溺れ る

死のために?

ああかくも不毛な問い

メビウスの帯

表裏がくっついていて

真理は空虚ー空虚は孤独

( 千切れ雲、薄曇り、

落雷、)――でも別に

わざわざ

語るような・・

けれどノンシャランな遠い日の僕等は

不完全な論理を リリカルクライ!

あいまいなもの幾度繰り返されたことだと

知りつつも 愛した

入れ子状に、

扉の奥に扉があることを 

浮き上がれミューズ!

震える自分の心臓

が けぶれる如くに見え

優しい手を置いてくれる

が しなびきってもおり

・・謎(が、)あまりにも深く

ポエジーの中に潜っている

それで、フィルムが切れている

僕どこから生まれたの

僕、床の中で、

伽る、とぎる

理解を迫られた

ふとした加減で

答えなんか

どうでも

、よくなっ

た(仮想の敵、)

は、いつも

範囲から

教科書から

そして自分の知性から

「自由の、」

と言い換えた



  *

 

ある日、いつものように夜

 

 


その時、たしかに、ふれているのです

世界で私たちのように何百万人もの子ども

そら、運命の石は、骨。敗者が、実際。・・

何がわかるだろう[きれいなものは維持したい、]

それにPRICEをつけていく

引き出しに、靴下が必要だ
        しあわせ
夜、歩くための、僥倖

作り話に濡れていくのか・・未知のあの世(へ、)

拝跪の姿――飢えたる山羊は彷徨う

神に祈る者はニュースをOFFにする

「もう少しだけ 現実を、忘れさせて・・」

X光線は、あの人ゃァいい人だァ!

蠍が石の下にもぐり込んでる、毒蛇が蜷局を巻いてる、

言うだけ野暮なことだよ君!

さあ内なる世界(へと、)放送網を作るんだ

セーフティ・ネットを作るんだ

板子の軋りと水を打つ橈の音のように、舟を

そこへと浮かべるんだ(近づいては 遠のいて

ポッカリ空いた空間――すべてを

攫うかのように )

浮かべて、誰がいるんだ、うう、寒い、寒い

こんな取得! 皮膚

その感触にまいっている

怖ろしい幻影はどうしても拭い去ることは出来ない

  ボンジュール、マドモアゼル

・・・汚れた床に魔術師は来る

千たび語れ。盲目的な愛情

忘れられない甘い香り、キーホルダーに人を飾ってゆく

  パーフェクト! ビンゴ!

今すぐお電話、我々は散 らば る

何度も慰める私の光は他者への案内

いいえ! ポテトチップス、チョコレートチップス

コンピュータチップス

とにもかくにも誰も起きて戸を閉めに行かないのに

靴下や靴があらわれる

服に、化粧品に、理髪師まで

さてこの夜はどんなあなたを見せてくれるの?

運命はこの瞬間に決められる

いつも違う顔、違う思考(で、)

この宇宙を取り巻いている偉大なる空間へと

ときに・・時?

取り巻いているこの海は波のように

打ち寄せては返す

タイミング(で、)ねむれな い、

いいえ、ねむらな い

見事な蝶はなんのため?

ほほえみは二、三行の短い手紙を書くため

くるし い、

いえ、ま だ、くるしくな い よ

・・・惚れるな

しかし、まだ引き裂くな

想いは届いているよ ね?

無意識、擦れ違う人波の中で

  シュートゴミウォーク

  ラグビーチームビルディング


氾濫 氾濫(する、)

ポスト的黙示録

“本当のところ、みんな予言者が欲しい!

煽動者が欲しい!”

さあ、遊ばせて

ファンタジー・スイッチ

  ・・・意味が薄れる三秒前

笑い。ぶつぶつ、パンです

、凄い!

焼くため

 

  *

 

完全な感情の一致

 


 秘密が心の中にあるのだと考えた人は

 金庫の鍵を開ける資格がある

 ・・・何をぐずぐずしている(色々な意味で、)

 鉄の鎖で繋がれた囚人にとっては

 初めて、脱出方法を発見したとでもいえるもの

 王は来らず。

 官能の対象たる沈黙と静寂の弟子となる。

 ――蜘蛛はその脚を苦しそうに痙攣させる

 「何故だ?」

 食後、酒を飲んだ

 蛇と蛙と蛞蝓が水面から浮かんだ

 ・・・花びらのように。