パン!
(かま)
に入れる気孔の息吹
パチパチと麺麭の焼ける音。
町や工場にながれてゆく
ライオンがとびあがる
壁の時計が踊る犬
***スイッチ オン***
クロワッサン、ロゼッタ
デニッシュ、食パン
ナイフが欲しい ナイフが欲しい
―――透ける光
髪をほどくこともできない、
・・・だが、誰にも 言いはしない
存在したのか、存在しなかったのか
仮定-技術用語ー物語
わたしは、テーブルで本を読んでいる。
目の端の埃を追い掛けている。
風が足下に滞留している。
窓から朝の陽が射しこんでいる。
よく気がつく人ね、と言われたが
わたしのノートはいつもちぎれている
***カラン コロン***
ー通りすがりのものです
( ソロリソロリと店内に入ってくる。
/地雷はありませんよ
いやでも、少し凸凹のある鏡のようになっていて、
滑って、つるん、つる、・・・歩くことが出来ないので、
「・・・でも、息をしなくてもよい、静けさですね」
うっとりするのだ、此の上もなく、
花弁が地面にはらはらと散り落ちてゆくように
手をポケットに突っ込んで
、しかしそのポケットの穴もあいて
俺はじっと見上げている。
白く柔らかく、この中に小さい胃だの腸だのが、
本当にちゃんと具わっていたら
頬ずりしたい・・・、
妙だね。不思議だね
「フランスパンに爪楊枝が刺さらないみたいに」
鍵が突然なくなってしまった
鼻筋が通っていて、優しそうな瞳の持ち主で
ウォルター・クレインの『夏』のような
路傍にでも、草叢にでも平気で腰をおろして、
もっと大きな痛みを堪えている、わたしパン屋
・・・女の名を呼ぶ―――水で埋められてゆく浴槽
しかしわたしの心は癒えない
シャーロット姫のようにわたしも死にたい
窓ガラスが・・・。吹雪を嘲っている
―――死者よ、おまえ達は生い茂っている
でも、ランチョンマットや、コースターが待っている
小麦粉、パン酵母、食塩、水がこねられ、形にされたがっている
=パンの焼くにほひがする。
騒がしかった通りもいつかは物置小屋のように静かになる。
カーテンのかかっていない窓辺がある
団欒と。窓から射し込む青い慈悲、、灰色の雲の前で
誰かが壁を叩いてる、ランプの光に青白い顔をみせている、
誰かが電車から飛び降りたがっている
そして、煙が流れていく、車輪の音が重なる
身元不明者、遺体、死者・・・永遠の価値
―――張り裂けそうな心臓が取り残されている
おとうさん―――こどもの声
客は耳を澄ますだろう
おとうさん―――あしおと
今度は目を凝らして、けれどまた瞑って
天丼は匂いと戯れている、ドタバタ喜劇をしている
ピエロの帽子をかぶっている、ジャグリングをしている
玉乗りをしている、綱渡りをしている、
けはひの中の、心惹くかをり
***裁判が おこなわれる***
シジフォス、メドゥーサ
ブラームス、チャイコフスキー
りんごが落ちない りんごが落ちない
閻魔帳、ダンテー。
・・・ロザリオ、教会 針の穴
存在したのか、存在しなかったのか
色をかえせ-肉も脂肪もないー金属、土器、鳥の羽根
わたしは、陳列棚という瞼の上の眉だ
うつらうつらとしながら
世界に対して無関心で、・・・少なくとも
少なくとも、わたしは、生きている
よく気がつく人ね、と言われたが
わたしのノートは半分引きちぎられたままだ
***カラン コロン***
小さい顔に、くりくりした、漆のように黒い目を光らして、
小さくて鋭く高い鼻が少し仰向いている3-4歳の少年、
ひどく可愛らしい。胃に不愉快を覚ゆるに、偏頭痛さえ引き起こす
・・・おまえは勝ち残ったのだ! ゼロからもういちど数え直す
(せかい)
なんとデリケートなのだろう
大きい食器戸棚、
重大なニュースが続々と発表せられている
しかし記憶はすぐにあやふやなものになってしまう、
借り物になってしまう、結婚式のイヤリング、ライスシャワー、
神父の台詞・・・、唇は階段が消えた、と白く濁っていく
よしかれあしかれ、橋はない、
誰かがその結末に首を振るわけでもない
***ベッドをぬけだした少年***
おかあさん、おじいさん
おばあさん、・・・―――
天使はどこにいるんだろう ・・・どこに
(たてごと)
みたいに弾きながら。少年は
マーモットを抱えたサヴォワ人になる
突然椅子から立ち上がり首をチョン斬られた
“道化”になろうとしている
大きい食器戸棚、
ありふれたバラの栽培、松葉杖、家族写真
「最初に吸った息が終わりそうだ・・・。」
クリーム の の イメージ
「煙草でも吸うか・・・。」
アイスクリーム の の イメージ
「あくびでもするか・・・」
毒が絡む。 酔いが廻る。回転いすがぐらつく。
あつめてほのかな材。楽園を追われた不老長寿じゃあるまいし
床だろうと、軋もうと! 足を運ぶ
―――窒息する前に! 射殺される前に!
***一匹のねずみ***
おかあさん、おじいさん
おばあさん、・・・―――
おとぎ話は美しい おとぎ話は美しい
イミテーションみたいな宝石、火薬。
・・・鏡の中では、誰もが隠遁者
存在したのか、存在しなかったのか
―――だが、誰も遡れない、行き着くことがない
わたしは、・・・わたしです、こんにちは
そこへ入れてください( 出て行け!
あなたのいない世界では、まるで巨大な音楽ホール
-の観客席で。貧しさという、途方もない考え
よく気がつく人ね、と言われたが
わたしのノートは―――いま、何時?
***きれいな手をしている写真の女***
パン!―――パン!
(かま)
から取り出す枯れた花々や
くだもののかをり
明るい日向に、まったく存在しなかった魚
からっぽのグラスをみたす、暗闇の中の戸惑い
そしてそれは 悲しい歌
笑い、叫ぶたび、・・・影が落ちる、落ちる
また、刈り取る。刈り取るの歌