SCARLET
彼女の線の細い、
壊れやすそうな背中を追いかけている、
知り合いなのに、
他人みたいな距離で、
時刻表の余白。
―――駆け去ってゆく冬。
いつかすべての生命に祝福の接吻を、
与える蝶。
春が来るか―――ら、
泳いでゆくか―――ら。
すばらしい出会いが弱々しい小賢しさに、
負けないと信じている。
でも溶け込めないものを感じる・・・。
ヴィントミューレ
―――風車。
手を繋げる、
後ろから抱き寄せられる、
頭を撫でることもできる。
(真っ暗に消えてゆく...)
(真っ暗に消えてゆく...)
チャンフンダオ・マンションになるんだろうな、
バサックアパートみたいなんだろうな、
露出補正機能、
高層建築、鉄筋コンクリート・・、
信号が変わる前に渡ろうとする、
黄泉の通路にでも迷い込んだ気分さ、
、、、、、
見えるかな、
渋滞、ほら、歯軋りが聞こえる、
、、、、、、、、、
分からないだろうな、
ひとりで熟成させるには向かない、
感情ディスプレイのブラウン管。
あなたのこと、
あなたのこと―――ばかり・・。
僕等はずっと傍にいた、
ピンクの花びら、箱型住宅の蝉、
公孫樹並木と金木犀が潤む浮浪者のしょぼつき、
折り目のところから千切れた本みたいに、
身体の中の半分、だった、の・・。
クリユプトガナメルス・クリユプトグラム
隠花植物ノ暗号文字で綴られる、
アプセンチア・アニミ
魂の不在。
魂の中の半分を持ってかれて、
なんだよいまさら、
音楽を作っているものが鼓動や呼吸だということに、
ふと気付く、
いま小さく澄んでいる、
泣きたいような、
オルゴールのメロディ
天使の階梯・・・・・・。
エシェック・エ・マット
投了。
なかなか剥がれない膏薬、
ネガフィルムのように焼きつく最後の科白。
残像のように眼に焼きついて離れようとしない、君の影。
伝えたいことも 増えていったけど。
胸の痛み以上の騒がしい未来。
何 も 変 わ ら な い ざ わ め き 。
何 も 変 わ ら な い 移 ろ い 。
少年時代に戻ったみたい―――だ、
傷つきやすくて、風船で、硝子で、
・・・・・・知ってる―――僕が落ち込んでいることを・・・・・・。
そして・・・・・・僕はきっと何も知らないでいるだろう・・・・・・。
血を見ないから、殴られたことがないから、
傷付くってことがどういうことかわからないから―――。
そう思ってたこととは違う、
、、、、
ぜんぜん、さ。
もっと根深くて、解決できない、
やり場のない怒りや、悲しみや、淋しさや、切なさ。
、、、、
まったく、さ。
妙に粘っこくて、耳に絡みついてくるような獣の、
低く低回する唸り声、
皮膚に覆いかぶさってくるような気分、
ほら、細い金属の線を思わせる・・。
誰 か が 窓 を 開 け た み た い に 、
「(あの時なんていうあの時はないよ―――ね)」
別 の 景 色 に 見 え る ・・・・・・。
「(同じ物質で、今と過去もつくられている、未来も)」
クライノート
―――宝石。
ありとあらゆるものに等しく祝福されるべきもの、
影響力の幻を溶かして、風が神の背中に触れる、
―――僕等まだ、完璧や究極や真実という形成の途上にいて。
息が詰ま―――る。
胸が熱―――い・・。
ザイデンシュトラーセ
千夜一夜物語・・・・・・。
エレヴェーターに乗ると、表示階数がわからなくなる。
必要以上に錆びた音をたてる階段のような気がした、
学校の屋上と似てる。
自然と深まりゆく躊躇い、
波を引くように手足から力が抜けていって、
眼の前が滲んでしまう、
いまの僕には君を引き留める力がないから。
異なる視座から微妙にズレたものを見る、
連想ゲーム。
人はそれでも意味を読み取る生き物、
最初見た時と同じ方向を見続けていても・・・・・・。
横断歩道の白だけ選んで歩けたらいい、
煉瓦の色だけで歩けたらいい、
途切れなかったら―――いい、
途切れなくて―――いい・・。
急ぎ足になろうとする、
そうしたら、お腹が減っている時の夕食のカレーとか、
便意やら尿意やらを我慢している時のそれを、
思い出してしま―――う。
時々思うよ、
僕等のいうところの本当ってなんだろうって。
本当は本当さ、それはわかっているよ、
でも、頭じゃわかっていても、心が、何かが、
それに肯かせたりしない―――んだ、
こんな切り替えのつかない気持ちのまんまじゃ、
何を言おうが、何を思おうが、一緒さ。
僕は化石の街で太陽の匂いを嗅ぐ―――甲虫・・・。
体験には権力や国家や文明や生活の枠組みがある―――から、
(身体を揺すってペダルを踏む、)
、、
―――から、
宇宙に向けて思考を閉じることが出来ないように、
(孤独な缶コーヒーを飲みながら共同椅子に座る、)
、、
―――から、
カウンターメモリがひたすらに減ってゆく。
高速道路の白銀灯、派手な看板、線路と電車、
コンビニエンスストアで買ったビニールの傘。
歩道橋、横断歩道、街路樹、
観覧車のような時間。
凸レンズの強く湾曲した音の滲んだような光景。
うねりは増しながら、
複雑に変化していく。
ほら、鬼ごっこしているみたいだ。
足が石のように冷えていくのを感じながら、蛇腹、
パターンの模様がいくつも入り乱れて宙に行きかう。
返事は必要ないということ、
古い映画の別れのシーンみたいじゃない、
湿っぽくなりたくない。
鱗雲は放射状の皺、
小さな波紋が投げかけるバタフライエフェクト、
フアフロツキーズ現象。
振り向いてもらう必要もない、
声をかける勇気のなかった思春期じゃない、
だってお互いの気持ちはわかっている、
視線の痕跡、
物質と光の圧力の浸透・・。
だのにどうして次から次へと引き出されてゆく希望の間で、
―――揺れるんだろう。
―――止まらないんだろ―――う。
僕はきっと一言も、やっぱりただの一言もいえずに、
この道を歩くんだろう。
曲がりくねった道を歩くように、遠のく水の流れ、
次第にこみあげてくる喜怒哀楽、
ロボットみたいな無表情をして、
残酷に繊細に変形する。
、、、、
―――調教する。
話しかけないでねといった、
決心が揺らぐからと、
凪のような時間。
こうやって―――。
こんな風に・・・・・・。
崩れずに横たわっているものが浮かび上がる―――。
でもそれを見ない・・・。
僕等は本当に何かを選んでいるのだろう―――か。
僕等は何も見てない・・・・・・。
身体の中の半分、だった、の・・。
クリユプトガナメルス・クリユプトグラム
隠花植物ノ暗号文字で綴られる、
アプセンチア・アニミ
魂の不在。
この暗い胸の奥にある鮮やかな精彩、
どれか一つの分かり易い感情では、
けして到達することのできなかった、
汚れた僕等の弱さを記す記念碑的な感情の結晶。
世界を認識するフィルター、
不安の象形文字にでもなりながら一瞬ごとに変形する、
暗部にグラデーションを与えるように。
あなたのこと、
あなたのこと―――ばかり・・。
微細なものから巨大なものにいたる圧倒的な拡がりに、
質量と速度と位相を記す物や人に囲まれて、
生きてる、
しばしば接する幸運や不運にも何もわかっていない、
とぼけたスヌーピーみたいな顔をしながら、
首輪をつけた犬と、鎖をつなげた杭。
情感が伝わり、心の奥にまで伝わって来る、
呼吸する感じ、包み込まれるような感じ・・・・・・。
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
無視してもこれから何度も心に絡みつきそうな、
、、、、
―――凪の時間。
これからの新しい生活が君を待ってる、
僕にも。
けれど問われ、試されるのは、
大人として過ごす時間になっていくだろう、
なんだ子供のままの方がよかったじゃないか、
と思いながら、
それでも心の中の燐は輝きたがっている、
新しいまでに残酷で優しく無力な世界の色の方へ。
心の扉の前で立ち止まることで、
開けられないまま迎えた、このドアを知ったことで、
U字型のカーヴのなめらかな感じと傾いてゆく視界、
木漏れ日の降り注いで泣きそうな、幸せなような、
もうこれ以上何処にも進まなくてもいいような、
あの感じ、そうさ、あの感じ・・・・・・。
リヒト
―――光・・。